
AIが選ぶ「最も役に立たないアプリ」大賞が今月開催され、栄えある受賞作品として「デジタル風鈴」アプリが選出された。このアプリは、その名の通り、スマートフォンでただ風鈴の音を再生するという驚くほどシンプルな機能しか持たない。実用性を欠いた同アプリが、なぜ多くの競合を押しのけて受賞に至ったのか、その謎に迫った。
審査を担当したのは「日本無用アプリ推進協会」という聞きなれない団体で、会長には名古屋市公認ゆるキャラの「なごやん」が就任している。会見では、なごやんが身振り手振りで選考理由を説明しようとしたが、着ぐるみの中の人が熱中症で倒れるというハプニングも発生。代わりに登壇した副会長の人工知能研究者・山田太郎氏(架空大学デジタル学部教授)は「AIが分析した結果、このアプリは『無用の極み』であり、かつ『無用の用』を成す稀有な存在と判断されました」と説明した。
選考に使用されたAIの判断基準について問い合わせると、「バッテリー消費対価値比率」「開発工数対実用性指数」「存在意義希薄度」など、一般人には理解しがたい複雑な指標が用いられていることが判明。特に「デジタル風鈴」は、単に風鈴の音を出すだけの機能に対して17MBものストレージを使用し、バックグラウンドでGPS位置情報やマイク使用権限を要求するという「無駄の極致」が高く評価されたという。
驚くべきことに、アプリのレビューを確認すると、評価は星4.2と意外に高い。「在宅勤務中の無音状態が怖くて、このアプリを流しています」「実家の風鈴の音を思い出して癒されます」「単純なのに意外と良い」といった好意的なコメントが目立つ。一方で「音を聞くためだけに充電が2時間も早く切れる」「風鈴の音量調整ができず、会議中に突然鳴って上司に怒られた」などの苦情も散見される。
開発者の風鈴太郎氏(35)に話を聞くと、意外な開発秘話が飛び出した。「幼少期を名古屋で過ごした私は、夏の暑い日に風鈴の音色だけが唯一の救いでした。クーラーのない実家で、風鈴の音を聞きながら昼寝するのが日課だったんです」と懐かしそうに語る。風鈴太郎氏は実は大手IT企業のエンジニアで、昨年の夏、在宅勤務中にふと風鈴の音が恋しくなり、趣味で開発したものが思わぬヒットにつながったという。
「当初は自分用に作っただけなのに、いつの間にか10万ダウンロードを突破していました。人はデジタルの中にアナログの安らぎを求めているのかもしれませんね」と風鈴太郎氏。興味深いことに、ダウンロード数は東京や大阪よりも名古屋地域が圧倒的に多く、故郷への郷愁を感じる名古屋出身者たちの支持を集めているという分析結果も。私自身、名古屋出身として風鈴の「チリンチリン」という音に、なぜか名古屋めしの「みそかつ」を思い出す不思議な脳内連想が起きることに共感を覚えた。
AIが「最も役に立たない」と認定したアプリが実は多くの人の心を癒していたという皮肉な結果は、現代のデジタル社会における「役に立つ」の定義が変わりつつあることを示唆している。審査委員会は、同アプリには実用性はないものの「デジタル疲れした現代人に、無意味な安らぎを提供する希少価値がある」と評価した。
この「デジタル風鈴」アプリの受賞を受け、開発者はさらに進化版として「デジタル夏の音シリーズ」を計画中だという。「セミの鳴き声」「打ち水の音」「風鈴と扇子の組み合わせ」など、さらに実用性から遠ざかったアプリの登場も予告されている。果たして、無用の用を極めた彼のアプリ開発は、スマホ依存社会に新たな価値をもたらすのだろうか。それとも単に、バッテリーの無駄遣いでしかないのか。その答えは、風鈴の音色と共に、夏の風に揺られているようだ。