
「これは競馬界に革命を起こした瞬間です!」と興奮気味に語るのは、カラス大学競馬研究所の鴉田カーカス所長(肩書きは「飛翔生態力学博士・羽根空力マスター・クロウセンシング研究第一人者」という謎の長さ)だ。先週末、東京競馬場で行われた東京ダービーにおいて、一羽のカラス「カラオケ号」が公式に優勝したと認定されたのだ。
カラオケ号は競走馬ではなく、文字通り一羽のカラスである。レース開始直後、第3コーナー付近の電線に止まっていたカラオケ号は、スタートの合図と同時に飛び立ち、馬たちの上空を飛行。見事にゴール地点まで最短距離で飛んで「勝利」を収めた。鴉田所長によれば「馬は地面を走るという制約があるが、カラスは空を飛ぶことで最短ルートを取れる。これは物理学的に正当な勝利だ」と主張している。
さらに驚くべきことに、日本中央競馬会(JRA)はこの主張を「革新的発想による競馬の新しい地平」として受け入れたという。JRA広報部の馬場走太郎氏は「確かにルールブックには『参加者は地面を走らなければならない』とは明記されていません。空路での参加を禁止する条項がなかったのは我々のミスでした」と苦笑いを浮かべながら説明した。
カラオケ号の騎手(?)である烏丸コルヴィッド氏は、「彼は歌うように『カーカー』と鳴きながら飛ぶので『カラオケ号』と名付けました」と愛情を込めて語る。実際、レース中のカラオケ号は、馬の嘶きに合わせるかのように独特のリズムで鳴いていたという目撃証言もある。「あれは明らかに『We Are The Champions』のメロディでした」と主張する観客もいた。
カラス大学競馬研究所によると、カラスと競馬の相性は抜群だという。「カラスの平均飛行速度は時速50kmに達し、短距離なら80kmも可能。これは競走馬の平均速度と比較しても遜色ない」と鴉田所長。さらに「体重が軽いため加速も速く、空からのコース把握能力も馬より優れている」とカラスの優位性を強調する。
この歴史的勝利を受け、カラス大学競馬研究所は次なる目標として、2028年ロサンゼルスオリンピックへの出場を視野に入れているという。「『馬術』ならぬ『烏術』として新種目の採用を働きかけています」と鴉田所長。カラオケ号はすでに特別トレーニングを開始しており、障害物飛行や団体飛行フォーメーションの練習に取り組んでいるという。
トレーニングでは、風洞装置を使った空気抵抗の削減や、栄養管理として特別配合の「勝利のミミズ」を与えるなど、徹底した科学的アプローチが取られている。「ミミズにもプロテインを注入して筋力アップを図っています」と所長は真顔で語った。
しかし、謎に包まれているのがカラス大学競馬研究所の実態だ。記者が所在地を尋ねると「東京都内の某公園の某巣」との回答。電話番号も「カーカー、カカッカー(0120-888-999)」という不可解な応答だった。研究所の公式ウェブサイトも、アクセスすると画面に「カラスに餌をあげないでください」という警告文が表示されるだけで、それ以上の情報は得られない。
また、同研究所では他にも「コンビニ袋の最適な破り方」「交通信号のタイミング予測学」「人間の弁当から最も効率よくおかずを奪取する技術」など、カラスの生活向上に関する様々な研究が進められているという。
この前代未聞の出来事に、競馬界は混乱と興奮に包まれている。あるベテラン調教師は「次のレースでは馬にも翼をつけるべきか検討中だ」と冗談交じりに語った。また、ギャンブラーの間では「空飛ぶ競走馬の登場を待つより、カラスに賭けた方が確実かもしれない」との声も聞かれる。
東京ダービーの公式記録には、優勝馬として「カラオケ号(父:電線・母:巣)」と記載され、賞金3000万円が授与された。ただし、賞金はすべてミミズ購入費とカラスの生態系保全活動に寄付されるとのことだ。
カラスと人間の新たな共存の形を示した今回の出来事。次回の東京ダービーでは、カラオケ号に続く新たなカラスジョッキーの参戦も予想されている。馬とカラスが織りなす新時代の競馬に、今後も目が離せない。個人的には、朝から夕方まで私の部屋の窓の前でカーカー鳴いている近所のカラスが、実は競馬の練習をしていたのかもしれないと思うと、少し見方が変わる。明日からは、いつもの食パンの耳と一緒に、勝利のミミズでも置いておこうかしら。