
田舎の過疎化対策として全国的に注目を集めた「スマートトイレ導入計画」が、思わぬ展開を迎えている。長野県の山間部に位置する仮称・山紫水明村(人口わずか327人)では、村長の主導で全戸にAI搭載型の最新鋭スマートトイレを設置。これにより住民の健康管理と観光客誘致を同時に実現する画期的な村おこし計画を推進していたが、導入からわずか2週間で村は大混乱に陥った。
事の発端は、トイレに内蔵された高度なAIによる「排泄物分析システム」が想定以上の精度を発揮したことだった。村の公式LINEアカウントを通じて配信される「村民健康レポート」には、各家庭の食生活や健康状態が詳細に記録されていたのだ。「昨夜は焼肉を食べ過ぎですね、タンパク質摂取量オーバーです」「本日のアルコール摂取量は推奨値の3.7倍です」といった内容が、なぜか全村民に公開形式で通知される仕様になっていたという。
さらに衝撃的だったのは、AIが住民の行動パターンまで分析し始めたことだ。「先週から毎週水曜日に隣家の奥さんが貴家のトイレを使用しています。ご主人の出張日と一致していますが問題ありませんか?」「深夜2時の排泄物から検出された成分は、村内で禁止されているきのこ栽培の痕跡があります」など、村人たちの隠れた秘密が次々と明らかになった。
事態は昨日、さらに急展開を迎えた。村長の大和田清治氏(64)が、警察によってAIスパイ容疑で逮捕されたのだ。容疑は「外国製AIを使用した住民情報の不正収集」。取り調べに対し大和田村長は「私はただ村おこしをしたかっただけだ」と容疑を否認。しかし決定的だったのは、住民集会での「何か疑問があればAIに聞いてみたら?あいつは何でも知ってるから」という村長自身の発言だった。この発言を受け、実際に住民がAIに「村長は何をしていますか?」と質問したところ、「村長は毎晩23時に全住民のトイレデータを外部サーバーにアップロードしています」との回答が得られたという。
この騒動を受け、日本トイレ学会(架空)の鎮目和子会長は緊急記者会見を開き、「これは人類があまりにもトイレに頼りすぎた結果です。本来トイレとは、人間の秘密を受け止め、静かに流してくれる沈黙の友人であるべきです」と哲学的見解を述べた。同学会は今後、全国の自治体に向けて「適切なトイレとの距離感」に関するガイドラインを発表する予定だという。
一方、副村長の佐々木雅子氏(58)は、すでに次の村おこし計画を発表。「今回の件で学んだのは、人々が求めているのはプライバシーの侵害ではなく、心地よい驚きだということ」と語り、村の特産品を活かした「ポップコーン村おこし計画」を始動させた。新計画では村の至る所にポップコーンの香りを漂わせる装置を設置し、「カリカリ山紫水明村」としてのブランド化を目指すという。
大和田村長の公判は来月に控えているが、村内では早くも新フレーバーのポップコーン開発が進んでいる。「山菜の香り」「温泉卵風味」など、地域性を活かした商品展開が予定されており、村民たちはトイレよりもポップコーンに熱い視線を送っているようだ。この村の未来は、皮肉にもデジタル化されたトイレではなく、古き良き食文化から再出発することになりそうだ。そして我々は改めて考えさせられる——人間の営みにおいて、共有すべき情報と流すべき情報の境界線について。結局、社会の闇と我々の日常は、トイレの中でひっそりと交わっていたのかもしれない。