
環境省の外郭団体として昨年設立された「国立マリカー環境研究所」が、任天堂の人気ゲーム「マリオカート」のプレイによって地球温暖化防止効果があるとする驚きの研究結果を発表した。同研究所はこの理論をもとに、来年度の国家予算を現在の100倍にあたる約3,500億円に増額するよう要求している。
研究所代表の吉田キノコ所長(57)によると、「マリオカートをプレイする際の集中力が脳内でCO2吸収酵素『キノコチン』を活性化させる」という。特に「レインボーロード」コースでのプレイ時には通常の2.7倍のCO2削減効果があるとしている。「一般家庭でマリオカートを1日30分プレイするだけで、スギの木3本分のCO2を吸収できる計算です」と吉田所長は胸を張る。
この新理論について詳しく知るため、愛知県名古屋市出身の筆者が研究所に潜入取材を敢行した。名古屋駅から徒歩15分、かつての繁華街の一角にある古びたビルの3階。看板には「国立マリカー環境研究所(旧・きのこ不動産)」と手書きで書かれていた。
所内には、任天堂のスイッチが10台ほど並び、白衣を着た「研究員」たちがマリオカートに興じていた。「データ収集中です」と言われたが、成績表には「マリオサーキット1位」「DKジャングル2位」などゲームの結果しか記録されていない。「根拠はどこ?」と問い詰めると、吉田所長は「国際ゲーム環境保護協会(IGEPA)の研究を参考にしています」と答えた。
しかし、IGEPAなる団体を調べてみると、吉田所長の実家のガレージに置かれた段ボール箱が本部となっており、メンバーは所長の親族5名で構成されていることが判明。「研究」の実態は、所長宅でのマリオカート大会の記録を集めただけであった。
それでも環境省内では「ゲームによる環境保護」が新たなトレンドとなりつつある。環境大臣は先日の記者会見で「私も赤甲羅より青甲羅派です」と発言。与党の重鎮議員らも「選挙区でマリオカート大会を開催する」と競うように公約に掲げ始めている。
先週末、吉祥寺で開催された「マリカー環境フェス」には約500人が参加。会場ではゲーム機が並べられ、プレイするたびに「あなたは○gのCO2を削減しました」という謎の認定証が配られていた。筆者の自宅から徒歩15分の公園で行われたこのイベント、参加者のほとんどが小学生とその親だったが、企業のブースも出展され、某飲料メーカーは「マリカープレイ中のドリンクはCO2吸収率を10%高める」という根拠不明な宣伝を展開していた。
国立マリカー環境研究所の予算要求は、財務省の事業仕分けでも「科学的根拠に乏しい」と指摘されたが、ゲーム好きの若手官僚たちの熱烈な支持もあり、増額は既定路線となっている。「ゲームで地球を救う」という虚構と現実の境界が曖昧になる中、私たちは何を信じればいいのか。そして気候変動という本当の危機にどう向き合うべきか——。
取材を終え、築40年のマンションに帰宅すると、私の飼い猫たちがスイッチの上でくつろいでいた。くしゃみをしながらもマリオカートを起動してみる。画面の中のマリオたちは、現実の環境問題など知る由もなく、カートを走らせ続けている。社会の闇を追いかける記者として、しかし同時に「マリオ×ピーチ」の関係性に密かに萌える一女性として、この矛盾こそが現代社会を象徴しているのかもしれない。(みつき)