
米国で新設された「遺伝子で選ぶ大統領選挙管理委員会」が、次期大統領選からDNA情報に基づいた投票システムを導入すると発表した。有権者はスマートフォンアプリ「DNAボート」をダウンロードし、専用キットで採取した唾液サンプルを分析することで、自分のDNAと最も「相性の良い」候補者を選ぶことができるという。
同委員会のジェームズ・ヘリックス委員長は「これまでの選挙は感情や政策だけで判断されてきましたが、実は私たちの政治的選好の68.3%は遺伝子によって決定されているのです」と主張。記者会見で筆者が「根拠はどこ?」と質問すると、委員長は「遺伝子選挙学会の最新研究です」と即答したが、調べてみるとそのような学会は存在しないようだ。
新システムの目玉は「祖先解析AI」だ。このAIは候補者のDNAを徹底分析し、最大50代前までの祖先の特性を掘り起こす。先日行われたデモンストレーションでは、共和党の有力候補が「17代前はアイルランドの酒場経営者だった」と診断され、本人は「絶対にありえない!」と激怒。一方、民主党候補は「8代前にチーズ職人の血筋がある」と判明し、急遽選挙キャンペーンにチーズ試食会を取り入れたという。
DNAマッチングの仕組みは複雑だ。例えば、「決断力遺伝子」「共感性遺伝子」「危機管理遺伝子」などを分析し、有権者と候補者の相性を5段階で評価。アプリ上では「あなたと候補者Aの遺伝子適合度は87%です!」などと表示される。バス旅が趣味の筆者は、取材の合間にアプリをダウンロードしてみたが、「あなたの決断力遺伝子は路線バスの終点まで乗る傾向があります」と的外れな分析結果が出て困惑した。
遺伝子投票の導入により、選挙後の政策も大きく変わる可能性があるという。委員会が発表した「遺伝子親和性の高い未来ビジョン」には、「遺伝子タイプA向け高速道路」「DNA適合型学校カリキュラム」「遺伝子で決まる最適税率」などの構想が並ぶ。さらに「遺伝子に基づく国会議員の座席配置」という案まであり、DNA的に相性の良い議員同士を近くに座らせることで、法案成立率が2.7倍になるとの試算まで示されている。
これに対し専門家からは懸念の声も。米国憲法学者のサラ・コンスティチューション教授は「これは憲法違反の可能性が高い」と指摘する。一方、遺伝子選挙学会の自称会長ピーター・ゲノム氏は「DNAは嘘をつかない。これからは政見放送よりDNA適合度が重要になる」と断言した。ゲノム氏の肩書きを確認しようと電話取材を試みたが、「現在、遺伝子的に電話に出られない状態です」という奇妙な留守電メッセージが流れるのみだった。
米国の動きを受け、日本でも導入を検討する声が上がっている。自民党DNA研究会の田中遺伝子議員は「日本人特有の『和』の遺伝子と相性の良いリーダーを選ぶべき」と主張。対する野党は「与党候補はDNA改ざんの可能性がある」と批判するなど、早くも遺伝子政局は混沌としている。
いずれにせよ、スマホを片手にDNA情報で投票する時代が目前に迫っている。投票所に行く手間が省ける反面、「遺伝子決定論」が民主主義の根幹を揺るがす可能性も否定できない。筆者は吉祥寺の自宅で猫のくしゃみをBGMに取材メモを読み返しながら、この奇妙な選挙制度と、来週発売の推しカップルが登場する少女漫画の行方を、同じくらいの熱量で見守っていきたい。