
全国おむつ替え選手権、通称「OMUチェンジ・バトル2023」の決勝戦が先週末、東京お台場の「ベビーケア・イノベーションセンター」で開催された。今年で3回目となる同大会だが、これまでにない異色の展開となった。なんと優勝したのは人間ではなく、AIロボット「オムツチェンジャーX」だったのだ。
大会の採点基準は「スピード」「技術点」そして最も配点が高い「泣き声レベル」。赤ちゃんの泣き声をデシベル計で測定し、静かであるほど高得点が与えられるという画期的なシステムだ。従来の育児スキルコンテストでは見られなかった「泣き声」という要素を取り入れた理由について、主催者の日本おむつ改革協会・鈴木会長(47)は「赤ちゃんの泣き声が少ないほど、おむつ替えの満足度が高いという科学的根拠に基づいています」と語る。しかし取材を進めると、鈴木会長の隣に住む高齢者から「赤ちゃんの泣き声がうるさい」というクレームが協会に殺到していたという裏事情も判明した。
決勝に進出した10組の親子と「オムツチェンジャーX」は、会場中央に設置された特設ステージで一斉におむつ替えを開始。人間の参加者たちが赤ちゃんをあやしながら手際よくおむつを替える中、「オムツチェンジャーX」は内蔵スピーカーから「赤ちゃん睡眠導入音楽(特許出願中)」を流しながら、わずか12.8秒でおむつ交換を完了。赤ちゃんは終始笑顔で、泣き声ゼロという驚異的な記録を樹立した。
開発者の東雲テクノロジー社CTO・佐々木氏(35)は「AIが分析した世界中の1万人の赤ちゃんの好みを学習させました。特に赤ちゃんが好む『アヒルのおもちゃを振る角度』と『おなかの上を撫でる圧力』を0.01ミリ単位で調整しています」と胸を張る。しかし、この発言に対し、会場後方で取材していた筆者の隣にいた男性から「そんな細かい調整、人間の親でもできるわけないだろ!」という声が漏れた。振り返ると、どこかで見たことのある顔の男性が立っていたが、目が合うとすぐに姿を消した。まるで都市伝説のような謎の人物だ。
大会を視察していた東京大学先端育児学研究所の山田教授(56)は「AIによる育児支援は社会的な課題解決の糸口になる可能性がある」と評価する一方、「赤ちゃんの泣き声は感情表現の重要な一部。それを完全に抑制することが本当に良いことなのか、慎重に議論すべきです」と警鐘を鳴らす。さらに教授は「私も3人の子どもを育てましたが、真夜中の泣き声で目が覚めない日はありませんでした。今思えばあれも成長の証だったのかもしれません」と個人的な見解を述べた。なお、山田教授の子どもたちは全員すでに30代で、インタビュー中に教授のスマホに「お小遣いください」というLINEが3件続けて届いていたことを付け加えておく。
会場では「AI育児」を巡って熱い議論が交わされた。優勝したロボットを前に、2位となった埼玉県から参加した鈴木さん(29)は「テクノロジーの進化はすごいけれど、赤ちゃんとのスキンシップが減るのは寂しい」と複雑な表情。一方、4位の佐藤さん(32)は「実は家でもAIスピーカーの子守唄に頼りきりです。これからは堂々とできます」と笑顔を見せた。
大会終了後、思わぬ展開があった。「オムツチェンジャーX」がバッテリー切れを起こし、担当していた赤ちゃんが突然大泣きを始めたのだ。慌てた運営スタッフが対応する中、赤ちゃんの母親が「やっぱり人間の温かさには勝てないのね」と笑いながら子どもを抱き上げると、不思議と泣き止んだという。
全国おむつ替え選手権は、現代の育児とテクノロジーの関係性に一石を投じた。AIロボットの優勝は確かに革新的だが、最後に見せた「バッテリー切れ」という人間らしからぬ弱点も、ある意味では安心材料かもしれない。結局のところ、育児の本質は効率や静けさだけではなく、親子の絆や感情の交流にあるのではないだろうか。個人的には、吉祥寺の自宅で夜中に鳴く保護猫の声に「静かにして!」と叫びながらも、結局は膝の上に乗せてしまう自分を思い出した。どうやら生き物との関係性というのは、完璧なアルゴリズムでは割り切れないものらしい。(みつき)