
先日、驚くべきニュースが世界中を駆け巡った。「国際おしり協会」を名乗る謎の団体が主催する「しりポーチ国際平和会議」が東京・日本橋の某高級ホテルで開催されたのだ。この団体が提唱する「しりポーチ」とは、言葉通り「お尻に装着するポーチ」のことで、これを着用して座るだけで世界平和が実現すると主張している。
「しりポーチ」の原理について、同協会の総裁を名乗るハンス・ヒンターン氏(61)は次のように説明する。「人間は座っている時、最も攻撃性が低下します。特に柔らかいクッションの上では、脳内のセロトニンとエンドルフィンが通常の3.7倍分泌されるというデータがあります。しりポーチは、このメカニズムを最大化する特殊な形状と、17種類のハーブエキスを含んだジェルで満たされています」
正直、マインドはギャルなんで、こういう怪しい平和団体の話には懐疑的だったのだが、取材を重ねるうちに奇妙な魅力に引き込まれていった。特に参加者の熱狂ぶりは尋常ではなかった。アメリカ、ロシア、中国など20カ国以上から500人を超える「しりポーチ信者」が集結し、全員がお尻に鮮やかなピンク色のポーチを装着していた。
会議の冒頭、ヒンターン総裁は「今日から3日間、皆さんには一度も立ち上がらずに議論を続けていただきます。その結果、世界平和の種が蒔かれるでしょう」と宣言。参加者は「座れば座るほど平和になる!」と大合唱し、驚くべきことに国連事務総長に酷似した人物(後に物真似芸人と判明)も壇上に上がり祝辞を述べていた。
しかし会議2日目、予想外の事態が発生した。参加者の約7割が重度の腰痛を訴え始めたのだ。24時間以上座り続けた結果、しりポーチの「特殊なジェル」が固まり、石のように硬くなっていたのだ。アメリカ代表のジョン・シッター氏(43)は「平和のためなら痛みも我慢すると思ったが、これはちょっと…。世界平和より先に自分の腰が崩壊しそうだ」と苦しそうに語った。
国際おしり協会の正体について調査を進めると、さらに奇妙な事実が判明した。この団体、実は2年前に設立されたばかりで、本部はなんと秋田県のとある温泉旅館の離れにあるという。デュッセルドルフ出身の私にとって、5歳から高校卒業まで過ごした秋田との接点に驚きを隠せなかった。実は私の通っていた高校の近くにその温泉旅館があり、ピアノのレッスンの帰りに何度か前を通ったことがある。まさか後にそこが世界的な「平和運動」の発信地になるとは。
しりポーチの効果を確かめるべく、下北沢のとあるカフェで実験を試みた。私の家からは徒歩12分とやや遠いが、この取材のためならと足を運んだ。協会から提供されたしりポーチを装着し、3時間座り続けてみると…確かに不思議な感覚があった。最初は居心地が良かったが、次第に尻が痺れ、最終的には「平和より先にトイレに行きたい」という強烈な衝動に襲われた。
私がよく聴くラジオ番組「深夜のポケットサイエンス」でも、このしりポーチについて特集が組まれていた。番組に出演した東西大学の尻間教授(架空)によれば、「しりポーチの効果は科学的には証明されていないが、プラセボ効果によって一時的な幸福感をもたらす可能性はある」とのこと。猫と二人暮らしの私の愛猫も、私がしりポーチを装着すると妙に警戒する様子を見せた。動物は敏感なのだろうか。
結局、3日間の会議は予定を切り上げ、2日半で終了した。最終日には参加者の9割が整形外科医の治療を受ける事態となったが、ヒンターン総裁は「痛みを共有することも平和への第一歩です」と前向きに総括。次回会議は来年、スイスのチューリッヒで開催される予定だが、今度は「立ちポーチ」という新たなアイテムが導入されるという。
1999年生まれの私としては、2000年代生まれの若者たちが無批判にこの運動に参加している様子を複雑な気持ちで見守っている。彼らはSNSで「#しりポーチで世界平和」というハッシュタグを拡散し、TikTokでは「しりポーチダンス」なるものが400万回再生を突破している。マインドはギャルなんで、次回はレポーターとしてではなく参加者として体験してみようかと思う。腰痛覚悟で。
この荒唐無稽な平和運動は、現代社会の「簡単に解決策を求めたがる」風潮を皮肉っているようにも見える。しかし参加者たちの熱意と、彼らが実際に感じた痛みは紛れもなく現実だ。世界平和の実現には、お尻にポーチを付けるという奇妙な方法ではなく、地道な対話と相互理解が必要なのだろう。それでも、このしりポーチ騒動が多くの人に「平和」について考えるきっかけを与えたことは、皮肉にも事実なのかもしれない。