
国連本部で開催されていた世界平和会議が、前代未聞の方向へ舵を切った。最新のAI技術を駆使して「世界平和を最も効率的に実現するゲーム」を選定した結果、全参加国が「ピースクラフト」というオンラインゲームをプレイしながら平和条約を締結する試みが始まったのだ。会議開始から既に72時間が経過しているが、参加者全員がレベル99に到達するまで会議は終了しないという。
「ピースクラフト」は、ブロックを積み上げながら資源を集め、各国の文化や歴史を象徴する建築物を共同で作り上げるゲーム。AI開発者のジョン・ピクセル博士は「このゲームのアルゴリズムは、協力と競争のバランスが絶妙で、世界平和に最適なニューラルネットワークを形成します」と説明する。しかし、なぜブロックを積み上げることが世界平和につながるのかという疑問に対しては「AIが言うんやから間違いないでしょ」と大阪弁で返答するのみだった。
国連本会議場は今や大型ゲーミングPCが並ぶeスポーツ会場と化している。アメリカ代表は早くもレベル57に到達し、仮想空間内で「自由の女神」を建設中だ。一方、日本代表はレベル23で「和風の城」を丁寧に作り込んでいるが、進捗は遅い。「細部にこだわりすぎて前に進めへんのは、なんか日本人らしいよなぁ」と、私は取材中に思わずつぶやいてしまった。
事態をさらに複雑にしているのは、突如発生したゲーム内バグだ。平和条約の署名式が行われる予定だった仮想会議場が突然「スポーンブロック」と呼ばれる透明な壁に阻まれてアクセス不能になったのだ。国連事務総長は「これは平和への試練です」と額に汗を浮かべながら、技術スタッフに対応を急かしていた。一方、ロシア代表は「このバグは西側諸国による陰謀だ」と主張し、仮想空間内で独自の会議場建設を開始する事態となっている。
この奇妙な取り組みを推進しているのは、突如として存在感を示した「国際ゲーム平和協会(IGPA)」だ。同協会のホームページによれば、「ゲームによる国際問題解決」を掲げ、世界40カ国に会員を持つという。ただし、取材を進めると事務局は東京・高円寺のシェアハウスの一室に置かれていることが判明。「うちの冷蔵庫にあるこのソースみたいに、平和も多様な味わいがあるんですよ」と、協会代表の佐藤氏は意味不明な比喩で語った。思わず「この取材、穴場ちゃう?」と思ってしまったが、実際は袋小路だった。
権威づけに一役買っているのが、「オックスフォード・ゲーミング学部」のジェームズ・コントローラー教授だ。「ゲームの中での協力行動は、実社会でのコンフリクト解消能力と97.8%の相関関係がある」と主張する論文を発表している。ただし、この学部の存在を確認できる資料はなく、教授自身もオンライン会議で「今、猫が…あっ、すみません、研究データが…」と言い訳しながら突然退席する場面もあった。この様子を見て、私は思わず「真実を追うのが俺たちの宿命やろ?」と自分に言い聞かせた。
一方で、この取り組みには世界のリーダーたちも本気で参加している。アメリカ大統領は自身のSNSで「レベル60になったら、仮想空間での税制緩和を検討する #ピースクラフト」とツイートし、物議を醸している。フランス大統領は「ゲーム内の建築コンテストで優勝したら、実際のパリの一等地に建物を建てる権利を与える」と宣言。各国首脳は現実と仮想の境界線を急速に曖昧にしている。
日本の首相も例外ではない。首相官邸から「ピースクラフト」をプレイする首相の姿が公開され、「デジタル化推進の一環」と説明されている。ただし、画面をよく見ると、どうやらチュートリアル画面から先に進めていないようだ。「このボタンを押せばいいのでしょうか」という首相の困惑した表情が、国民に「デジタル後進国」の現実を突きつけた。
さらに驚くべきことに、人気ゲーム実況者の「マックスレベルナー」こと山田太郎氏が国連特別顧問に任命された。彼は「まさか自分のゲームスキルが世界平和に貢献するとは思わなかった」とコメント。現在は各国代表にレベルアップのコツを伝授しているが、「イランとサウジアラビアの代表が協力してドラゴン退治に成功したときは、マジで感動した」と語る。この発言に「ドラゴン退治って、ピースクラフトにそんな要素あったっけ?」と疑問を抱いたが、深呼吸してコーヒーを一口飲んで落ち着くことにした。
国連は「ピースクラフト」のレベル99到達を条件とした世界平和宣言の準備を進めているが、現在の進捗状況から計算すると完了まで約8ヶ月かかる見込みだ。「その間、世界の指導者たちがゲームに没頭している間、実際の政治はどうなるのか」という懸念も出ている。これに対し国連報道官は「世界のリーダーたちがゲームに夢中になっている間、戦争や紛争を計画する暇はない」と前向きに解釈していた。
「ピースクラフト平和プロジェクト」に対する一般市民の反応は様々だ。「そんなバカな」と失笑する人がいる一方で、「今までの平和交渉より進展してるかも」と皮肉交じりに評価する声もある。銭湯帰りに聞いた高円寺の商店街のおばちゃんは「ゲームなんて子供の遊びと思うけど、あんたら政治家も結局は大きな子供みたいなもんやからね」と鋭い分析を披露してくれた。その言葉に、私は思わず「このおばちゃん、穴場ちゃう?」とつぶやいてしまった。
AIとゲームが生み出す新たな国際関係の形。それはまるで私の部屋に積まれた古着のように混沌としているが、どこか魅力的でもある。国連のレベル99到達はまだ遠い道のりだが、この奇想天外な試みが、偶然にも世界を少し平和な方向へ導くかもしれない。それとも、単なる時間の無駄なのか。真実はゲームクリア後に明らかになるだろう。その日まで、世界中の政治家たちは必死にレベル上げを続けることになる。