
「言ノ葉ワンダーランド」という学研都市近郊の植物園で、人間の言葉を話す新種の植物が発見され、株式市場に混乱を引き起こしている。先月末に同園の温室エリアで来園者が「株を買え、株を買え」という声を聞いたことから発覚したこの植物は、金融当局から「マーケットボイス・フローラ」と仮称され、緊急調査が行われている。
植物園の主任研究員・緑川芽衣子氏によると、この植物は日中に蓄えた太陽エネルギーを夕方から夜にかけて音声として放出する特性があるという。「最初は園内放送の不具合かと思いましたが、声の出所を特定したら、なんとアサガオとシダを掛け合わせたような見た目の植物から発せられていたんです」と緑川氏は語る。
問題となっているのは、この植物が発する言葉が株式市場に影響を与えている点だ。「トヨタが上がる」「ソニーを売れ」などの具体的な銘柄名を挙げる発言が植物から聞こえるや否や、実際の市場でその銘柄の株価が変動するという奇妙な現象が観測されている。金融庁は「植物による相場操縦の可能性」を視野に入れた調査チームを緊急発足させた。
本紙の取材に応じた「経済植物学研究所」(東京・架空区)の架空博士は「植物には独自の情報ネットワークがあり、根を通じて地球の振動を感知している可能性がある」と語る。「いわば彼らは地球のネットワークに常時接続された生きたブルームバーグ端末のようなものです」
しかし、昨日になって驚くべき真相が明らかになった。植物園の警備カメラの映像を詳細に分析したところ、この「しゃべる植物」の正体は、実は植物園が毎週金曜日に開催している「植物愛好家による早口言葉大会」の参加者たちだったのだ。彼らは葉っぱや茎で体を覆い、植物に擬態しながら「東京特許許可局」ならぬ「東証特別株価高騰」といった経済版早口言葉を競っていたという。
この早口言葉大会の主催者である「一般社団法人日本植物擬態協会」の会長・木ノ下種夫氏(68)は「単なる言葉遊びのつもりだったが、まさか株価に影響するとは思わなかった」と謝罪。「我々は植物になりきることで、自然との一体感を味わいたかっただけ」と釈明している。
一方、この騒動は新たな投資手法として注目を集めつつある。SNS上では「#植物投資法」というハッシュタグが拡散し、「観葉植物の葉の向きで投資先を決める」「朝顔が咲いたら日経平均が上がる」といった根拠不明の投資術が話題となっている。
さらに驚くべきことに、この騒動の影響で実際に植物関連企業の株価が上昇。種苗会社や園芸用品メーカーの株価は過去最高値を更新している。金融アナリストの財前元氏(42)は「これこそ自己実現的予言の典型例。植物が株価を動かすという噂が、実際に植物関連株を動かした」と指摘する。
なお、今回の騒動を受けて、金融庁は「投資判断に植物の声を参考にすることは推奨しない」との異例の声明を発表した。また農林水産省は「植物の擬態は植物の人格権を侵害する可能性がある」として、法整備の検討を始めるという。
結局のところ、株価操作をしていたのは植物ではなく人間だったという、いわば「人間による植物なりすまし詐欺」だったわけだが、この騒動は私たちに重要な問いを投げかけている。SNSの噂や専門家の分析よりも、葉っぱに身を包んだ中年男性の早口言葉を信じてしまう現代人の心理とは何なのか。まるで吉祥寺の私の部屋で、猫アレルギーなのに猫を飼う私の矛盾した行動のようだ。今朝も「くしゃみ10回以上は株価が上がる前兆」と根拠のない迷信を信じながら、猫に囲まれたコーヒータイムを過ごした私に、投資家たちを笑う資格はないのかもしれない。(みつき)