
宇宙飛行士たちの悩みの種である「宇宙酔い」に、思わぬ特効薬が登場した。JAXA(宇宙航空研究開発機構)と架空の「宇宙飛行士心理研究所」が共同で開発した「ドラマ40」プログラムだ。この画期的な訓練法は、AIが生成する40本の特殊ドラマを視聴することで宇宙酔いを克服するという、にわかには信じがたい内容となっている。
宇宙酔いは宇宙飛行士の約7割が経験するといわれる症状で、特に長期ミッションでは深刻な問題となってきた。従来の訓練法では効果に限界があったが、「ドラマ40」プログラムでは、AIが作り出す「論理的に予測不可能な展開」を持つドラマを視聴することで、前庭器官の混乱に対する耐性を獲得できるという。
「最初は半信半疑でした」と語るのは、パイロットプログラムに参加した宇宙飛行士の山田航太郎さん(38)。「AIドラマの主人公が突然別人になったり、昨日死んだはずのキャラクターが何事もなく登場したりする展開に、最初は吐き気を催しました。でも20本目くらいから、脳が『もう何が起きても驚かない』状態になり、宇宙空間でのあの不快感が嘘のように消えたんです」
特に効果的だったのは、AIが生成した「恋する宇宙ステーション」シリーズだという。地球を周回する国際宇宙ステーションを舞台にしたラブコメディだが、重力の概念が作中で5分ごとに変わり、キャラクターの国籍も突如入れ替わるという混乱極まりない内容だ。「論理的整合性を諦めた脳が、前庭器官からの矛盾した信号にも順応するようになる」と宇宙飛行士心理研究所の鈴木教授(架空)は説明する。
この画期的な発見には、AIドラマの予測不能性が鍵を握っていた。人間の脚本家が書くドラマには必ず「論理」が存在するが、AIドラマにはそれがない。「AIドラマは、まるで酔っぱらいの会話のように支離滅裂」と評するのは、プログラム開発に関わった工学博士の田中さん(44・架空)。「人間の脳は無理やりそこに意味を見出そうとするが、できないことに気づくと『あきらめモード』に入る。このあきらめが宇宙酔いの克服につながるのです」
「ドラマ40」プログラムは、次世代の火星ミッションを見据えた取り組みだ。約7ヶ月に及ぶ火星への片道旅行中、宇宙酔いに苦しむことなく過ごせるよう開発された。すでにプログラムを完遂した宇宙飛行士たちは「火星まで行っても平気」と自信を見せる。なかには「むしろAIドラマのほうが現実より混乱する」と漏らす宇宙飛行士もいるという。
プログラムの副次的効果も報告されている。「ドラマ40」を完遂した宇宙飛行士たちは、地球に帰還後も「何を見ても動じなくなった」という。山田さんは「先日、電車が突然20分も遅延したのに、周囲が騒いでいるのを見て不思議に思いました。AIドラマを40本も見ると、人生のあらゆる不条理が許容できるようになるんです」と語る。
今後はこの技術を一般向けにも提供する計画があるという。長距離フライトの機内エンターテイメントや、船酔い対策としての活用が検討されているほか、「人生の理不尽に慣れたい人向け」のストリーミングサービスとしての展開も視野に入れているとか。なお本記者も取材の一環として1本だけAIドラマを視聴したが、猫アレルギーが一時的に改善したという予想外の効果があった。現実逃避のためか脳が過剰反応をやめたようだ。根拠はどこ?と自問したが、大体のことはググれば出てくるっしょ、と思い直した次第である。