
パリの有名クレープショップで修業したベテラン職人から、原宿の路面店で奮闘する若手まで、世界中のクレープ職人たちが集結した前代未聞の競技大会「第1回国際クレープタワー建設大会」が先週末、東京・お台場の特設会場で開催された。従来のクレープ作りの概念を覆す本大会では、出場者たちが生地を幾重にも重ね、高さを競い合うという斬新な挑戦が繰り広げられた。
大会を主催する国際クレープ建築協会(ICAS:International Crepe Architecture Society)によると、優勝したのはフランス・ブルターニュ地方出身のジャン=ピエール・ガレット氏率いるチーム「レ・クレピテクト」。なんと高さ100メートルという驚異的なクレープタワーを完成させた。これは東京タワーの約3分の1、一般的な30階建てのビルに匹敵する高さだ。
「若い頃にパティシエとして働きながら建築を学んでいたんです。人生の二つの情熱を融合できる日が来るとは」と語るガレット氏(53)。特製の補強生地と独自開発した「構造用ホイップクリーム」を駆使し、およそ12,000枚のクレープを積み上げたという。
取材のため現地に足を運んだ筆者は、その圧倒的な存在感に言葉を失った。高円寺の狭いシェアハウスで毎朝「駅前クレープ制覇計画」を密かに温めている身としては、クレープという存在の可能性の広がりに心を震わせずにはいられない。ちなみに会場へ向かう電車内では、ボイスレコーダーを2台起動させ、周囲の反応も収録した。「お台場でなんかデカいクレープのやつあるらしいで」という関西弁の会話が聞こえたときは、故郷・大阪を思い出して少し胸が熱くなった。
会場では「タワー建設」という競技の性質上、単なる料理人ではなく、元建築家や土木技術者などの異色の経歴を持つ参加者も目立った。日本代表チーム「和クレープ匠」の主将・鈴木誠一氏(47)は、以前は超高層ビル設計に携わっていたという。「耐震構造の知識をクレープに応用できるとは思いませんでした。でも、地震大国日本らしい視点が評価されたのではないでしょうか」と語る鈴木氏のチームは高さ87メートルで3位入賞を果たした。
国際クレープ建築協会は2019年、フランスのスイーツ職人とイタリアの建築家グループが「食と建築の融合」を目指して設立。当初は「単なる道楽」と揶揄されていたが、コロナ禍でのSNS拡散により徐々に注目を集め、現在は21カ国に支部を持つという。協会のモットーは「Delicious Infrastructure(美味しいインフラ)」。
同協会の広報担当マリア・クレパン氏は「将来的には実際に入れる建物としてのクレープ建築も実現可能」と主張する。「防水・耐久性のある特殊クレープ生地の開発に成功しており、環境に優しい建材として注目されています。老朽化したら食べられるという利点もあります」
大会当日は約3万人の観客が詰めかけ、巨大クレープタワーを一目見ようと長蛇の列ができた。タワーに使用された生地の総量は推定15トン以上。「普通のクレープじゃないんだろうけど、あれ全部食べられるの?」と疑問を口にする来場者も多かったが、主催者側は「基本的にはすべて食用素材です」と回答している。ただし、実際の試食会は行われなかった。
最も盛り上がったのは、優勝した100メートルタワーの頂上に設置された特製フルーツソースの放出シーン。高さ100メートルからストロベリーソースが滝のように流れ落ちる様は圧巻で、多くの観客が「インスタ映え」と口々に言いながら撮影に興じていた。銭湯マニアの筆者としては、「これが温泉だったらなぁ…」と一瞬考えてしまったが、さすがにそれは非現実的だろう。
今回の大会成功を受け、協会は早くも「クレープブリッジ大会」や「クレープドーム大会」など派生競技の開催を計画中だという。また、「建築系クレープ」という新たな食文化の誕生を予感させる出来事として、料理界からも注目を集めている。次回大会は来年パリで開催予定で、すでに参加希望者が殺到しているとのこと。甘い香りに包まれた新たな建築革命の幕開けを、我々は目の当たりにしているのかもしれない。