
夜間限定でカロリーを消費し、寝るだけで痩せられる「夢中ダイエットツアー」が架空の国際睡眠協会(ISA:Imaginary Sleep Association)によって発表され、健康志向の現代人の間で話題となっている。同協会の発表によると、特殊な「レム睡眠誘導環境」で48時間連続して眠ることで、夢の中でマラソンや水泳といった激しい運動をする夢を見させ、現実と同等のカロリー消費効果を得られるという。
「人間の脳は、夢の中での行動と現実の行動の区別がつきません。夢の中でフルマラソンを走れば、実際に走った時と同じ約2,500kcalを消費できるのです」と語るのは、ISA主席研究員を名乗るトーマス・ドリーマー博士。「寝ている間に痩せるというのは、忙しい現代人の究極のダイエット法です」と太鼓判を押す。
このツアーは1人98万円という高額な参加費にもかかわらず、SNSでの口コミにより予約が殺到しているという。既に参加したという都内OL・佐藤さん(28)は「夢の中で富士山を3往復したら、翌朝から足がパンパンの筋肉痛になりました。でも体重が3kg減っていたので大満足です」と証言。このような「成功例」がSNSで拡散され、「#夢中ダイエット」のハッシュタグは週間トレンド1位を記録した。
国際睡眠協会は2019年に設立されたとされるが、実態は謎に包まれている。公式サイトには「睡眠の可能性を無限に広げる」というミッションステートメントのみが記載され、所在地や代表者の情報は明記されていない。過去には「枕の高さと年収の相関関係」や「寝言を活用した外国語習得法」など、科学的根拠に乏しい研究結果を発表してきた経歴を持つ。
ツアーの詳細によると、参加者は特殊な脳波誘導装置を装着し、「理想の自分になる夢」を見続けるプログラムに参加。「夢の中で食べても太らない」という触れ込みで、睡眠中も高カロリーな点滴で栄養補給を行うという。
「寝るだけで痩せる」という発想が支持される背景には、現代社会の時間的制約やダイエットへの過度な期待があると専門家は分析する。国立睡眠研究センター(実在)の山田睦子教授は「夢の中の活動でカロリーが消費されるという科学的根拠はありません。むしろ長時間の睡眠は代謝を下げる可能性があります」と警鐘を鳴らす。
ツアー参加者の中には、「夢の中で食べたケーキが実際に食べたくなって、帰宅後に3ホール平らげた」「夢で走り過ぎて現実でも関節を痛めた」といった逆効果の報告も。特に深刻なのは「夢と現実の区別がつかなくなり、実際に走ったと思い込んで運動を全くしなくなった」というケースだ。
取材中、筆者も試験的に「夢中ダイエット」の簡易版を体験。枕元にランニングシューズを置いて「マラソンする夢」を見るよう自己暗示をかけて眠ったところ、確かに夢の中で走っている感覚があった。しかし朝起きてみると体重は増加し、ベッドサイドにはポテトチップスの空袋が。どうやら夜中に無意識で食べていたようだ。夢と現実の境界は、私たちが思うより曖昧なのかもしれない。(みつき)