
名古屋で開発された「eSIMフードドクター」という革新的アプリが、食べた料理の写真をスマホで撮るだけで、その場で健康診断ができると話題になっている。開発元のナゴヤ健康フード研究所によると、eSIM技術を応用し、料理から栄養素を分析、さらに食べた人の体内変化までAIが予測するという驚異的な機能を持つとされていた。発売から2週間で10万ダウンロードを突破し、「忙しくて病院に行けない現代人の救世主」と称されていたが、今週、衝撃の事実が判明した。
「eSIMフードドクター」は実は、ただのレシピ集アプリだったのだ。料理写真をアップロードすると、その料理に含まれる「推定」栄養素が表示され、併せて「あなたの健康にはこんな料理がおすすめ」というレシピが提案されるだけのシンプルな機能しか持っていなかった。しかも栄養素分析も実際には画像認識AIが「これはハンバーグっぽい」と判断して、あらかじめ登録された一般的なハンバーグの栄養情報を表示しているだけだという。
この事実は、アプリを購入した愛知県在住の主婦が、夫の手作りカレーを分析したところ「このエビフライには脂質が多く含まれています」と表示されたことから発覚した。SNSで投稿された画面キャプチャは瞬く間に拡散し、「いやいや、これカレーだから!」というツッコミとともに大炎上となった。
事態を重く見た私は、アプリ開発元を名乗る「ナゴヤ健康フード研究所」に突撃取材を敢行した。中学時代に校長室への直談判を趣味にしていた経験を活かし、名古屋市内の雑居ビル4階にある同研究所のドアを叩いた。出迎えてくれたのは、白衣を着た自称「フードドクター」の山田太郎氏(仮名)。しかし取材を進めるうちに、この「研究所」が実は山田氏の自宅兼事務所で、白衣も「権威づけのため」に着用していることが判明した。
「確かにアプリ名と機能には乖離があります。でも『食べ物を通じて健康を考えるきっかけになれば』という思いで開発しました」と山田氏。さらに「eSIM」の意味を尋ねると「Every Simple Information about Meal(食事に関するあらゆる簡単な情報)の略です」と答えた。通信技術の「eSIM」とは全く関係なかった。
取材中、私の持参したコーヒーを啜りながら、昨日の取材メモを声に出して要約しようとしたが、研究所で飼われている猫「データ君」のせいで例によってくしゃみが止まらなくなった。それでも取材を続行。実は山田氏、ITの専門家ではなく料理研究家の卵で、アプリ開発は外注、名前だけで権威づけしていたことも白状した。
この件についてTwitterでは「大体のことはググれば出てくるっしょ」「『健康診断』と『レシピ提案』の違いくらい説明して」など皮肉が相次いだ。特に話題となったのは、アプリのレビュー欄に「血糖値が高いと診断されたので病院に行ったら何ともなかった。時間とお金の無駄」という投稿だ。
山田氏が見せてくれた「研究施設」は、キッチンとパソコンデスクがあるだけの普通の部屋。壁には「料理で世界を変える」というポスターと、私が好きなラブコメ漫画「きみとごはん」のポスターが並んでいた。思わず「このカップル尊いですよね」と話しかけたところ、山田氏も熱狂的ファンだということで意気投合。そこから30分ほど最新話の考察で盛り上がってしまった。
結局、「eSIMフードドクター」は虚偽広告の疑いでコンシューマー庁から指導を受け、アプリ名を「みんなのレシピドクター」に変更することになった。山田氏は「最初から正直に『レシピ提案アプリ』と言えば良かった」と反省の弁を述べている。この一件は、テクノロジーの進化とともに高まる「便利な未来への期待」と「現実のギャップ」を象徴する出来事となった。今回の件で私が感じたのは、デジタル社会の闇と、取材後に読んだ「きみとごはん」最新刊の推しカップルの尊さ。相変わらず矛盾だらけの人生を、吉祥寺の築40年マンションで猫2匹と共に、くしゃみしながら生きていく。