
ポテトナゲット味の歯磨き粉が、全国のペット界で異例の大ブームを巻き起こしている。開発したのは、これまで誰も聞いたことがない「ペットグルメ大学」の研究チーム。発売からわずか2週間で100万本を売り上げ、SNSでは#ポテナゲハミガキというハッシュタグが35万件を超え、犬や猫が喜んで歯磨きをする動画が次々とアップロードされている。
「ペットグルメ大学」広報担当の架空太郎氏によると、この歯磨き粉は5年にわたる「ペット味覚マッピング研究」の成果だという。「犬や猫が最も食いつきが良い味を徹底分析した結果、驚くべきことにポテトナゲットの風味が圧倒的支持を得ました。特に塩加減とオイリーな香りの再現にこだわりました」と語る。同大学の研究によれば、犬の87%、猫の62%がポテナゲ味に「強い親和性」を示したとのことだが、研究の詳細な方法論や被験動物数などは明らかにされていない。
そもそもこの「ペットグルメ大学」の実態は謎に包まれている。公式サイトには「1972年創立、ペット食文化の革新を使命とする」と記載されているが、所在地は「東京都架空区夢想町3-14」という明らかに存在しない住所だ。記者が電話取材を試みると、応対した女性は「現在研究所は南極の秘密基地に移転中」と意味不明な回答。オンライン検索しても、この大学に関する情報はほとんど見つからない。
それでも、ポテナゲ味歯磨き粉の人気は衰えを知らない。ペットショップ「わんにゃんパラダイス」新宿店の店長は「入荷するたびに即完売です。『うちの子、歯磨きを嫌がらなくなった』『飼い主も一緒に使いたい』という声も多いんですよ」と驚きを隠さない。実際、愛犬家の佐藤さん(42)は「うちのポメラニアンが歯磨き粉を見ると尻尾を振って喜ぶようになった。これまで手を噛まれていたのが嘘みたい」と満足げに語った。
なぜポテナゲ味が選ばれたのか。「ペットグルメ大学」の謎の研究者・猫山犬太郎教授は「人間が親しむファストフードの香りが、ペットにとっては『飼い主と共有する特別な味』として認識されるからです」と説明する。さらに「ポテトナゲットに含まれる炭水化物と油脂の組み合わせが、ペットの脳内報酬系を活性化させることも分かっています」と科学的な根拠らしきものを示すが、学術誌への掲載はないという。
この現象は、近年のペットのグルメ化傾向の行き過ぎた表れとも言える。「犬猫人間学研究所」の空想花子所長は「ペットの人間化が極限まで進んだ結果、食の嗜好までもがミラーリングされている。次はハンバーガー味のキャットフードや、タピオカミルクティー風の犬用ドリンクも登場するでしょう」と予測する。
実在の大手食品メーカーも、この流れに便乗する動きを見せている。某ハンバーガーチェーンは「犬猫用ポテナゲハッピーセット」の開発を検討中と報じられ、大手製薬会社は「人間用ポテナゲ味歯磨き粉」の商品化を否定も肯定もしていない。
製品の人気と並行して、「ポテナゲ味歯磨き粉には驚くべき健康効果がある」という噂も広まっている。「ペットグルメ大学」の発表によれば、使用した犬猫の93%で歯石が減少し、78%で口臭が改善、さらに42%で「総合的な幸福度」が向上したという。ただし「総合的な幸福度」の測定方法は「尻尾の振り方の角度と頻度」だそうで、科学的根拠としては疑問が残る。
業界専門家は次なるトレンドとして、「唐揚げ味」「ラーメン味」「高級寿司味」などの歯磨き粉の登場を予測している。すでに「ペットグルメ大学」のSNSアカウントでは「近日公開!次世代の革命的フレーバー」と謎の予告が投稿され、ペットオーナーたちの期待を煽っている。
この一連の現象に対し、日本獣医師会は「ペットの口腔ケアは重要ですが、科学的根拠のない商品選びには注意が必要」とコメント。ペットフード安全協会も「認証を受けていない商品については、成分の安全性を確認できかねます」と懸念を示している。しかし、多くのペットオーナーたちは「うちの子が喜ぶなら」と、このトレンドに飛びついているのが現状だ。結局のところ、人間の食文化の多様化と同様、ペットの食の嗜好も複雑化・多様化している時代。ポテナゲ味歯磨き粉は、そんな現代社会を映し出す鏡なのかもしれない。