
2048年5月10日、第53回インターグローバル未来書道大賞で、審査員を仰天させる作品が発表された。「炭素ゼロ筆」と名付けられた革新的な書道具を使用した『環』という一文字が、文字通り「環境問題を一筆解決」するという前代未聞の効果を発揮したのだ。
この画期的な筆を開発したのは、2046年に設立されたという「エコロジカル・アート大学」の異次元環境学部。同大学の松風竹雨(まつかぜ・ちくう)教授によると、この筆は特殊な「時空間炭素吸収インク」を用いることで、筆が紙面に触れた瞬間から逆算して過去150年分の二酸化炭素を吸収する仕組みになっているという。
「従来の筆では表現できなかった『未来の墨痕』を実現しました」と松風教授。「一見普通の墨に見えますが、実はナノレベルで『時間の折り紙構造』を形成し、産業革命以降に排出された二酸化炭素を吸い込む小さなブラックホールのような働きをするんです」
大会当日、審査員席に居合わせた「国際未来書道協会」の鶴岡雲仙会長(92)は、筆が紙に触れた瞬間、会場の温度が一瞬で2度下がり、窓の外に見えていた海面が30センチほど下降したと証言している。「まるで地球温暖化が一時停止したかのようでした。私の白髪も一瞬黒く戻ったような…いや、それは気のせいかもしれませんが」
開発チームによると、炭素ゼロ筆は特殊な「量子もつれ竹繊維」で作られており、筆を振るう際の気の流れが「カーボンニュートラル場」を生成するという。筆を使用した実演者の山田緑水さん(28)は「筆を持った瞬間、手のひらから緑色の光が漏れ出し、頭の中に過去150年分の環境破壊の映像が流れ込んできました」と興奮気味に語った。
この革命的な発明に対し、現代書道界からは懐疑的な声も。日本伝統書道保存会の古川石峰氏は「そもそも書は心を表現するもの。環境問題を解決するのは筆の役目ではない」と批判。これに対し、エコロジカル・アート大学の学生たちは「古川先生の使う筆は1本あたり27.3kgの二酸化炭素を排出している計算になります」と反論している。
「炭素ゼロ筆」の実用化に向けて、開発チームは既に特許を申請済み。2050年までに一般販売を目指すという。価格は1本あたり約35万円と高額だが、「地球の未来を救う投資と考えれば安いものです」と松風教授。環境省からも「まずは国会議事堂に設置された毛筆署名台を炭素ゼロ筆に置き換えることから始めたい」との前向きなコメントが寄せられている。
取材を終えて帰宅する途中、駅の構内でポップコーン屋を見つけ、思わず「炭素ゼロポップコーン」なるものを期待してしまった。残念ながら普通のキャラメル味だったが、もしかしたら2050年には、私たちの食べるポップコーンも環境問題を解決する時代が来るのかもしれない。猫たちが待つ自宅に向かいながら、バスの窓から見える夕暮れの街並みに、未来の書が描く新たな世界を想像してみるのも悪くない。くしゃみをしながら。