
東京・武蔵野フードシネマ特派員 みつき
競馬の祭典として知られる「安田記念」で、今年は予想外の大物が誕生した。馬ではなく、競馬場の敷地内で栽培された巨大レタスが、ハリウッド映画『レタス・キング』で主演を果たし、映画界に旋風を巻き起こしているのだ。
この驚異のレタスは、安田記念のコース外周に設けられた「馬のいない時間帯農園」で育てられたもので、通常のレタスの約50倍というサイズを誇る。担当の園芸スタッフ・佐藤英樹氏(45)によると「馬の走る振動と観客の歓声がレタスの成長を促進した」という、競馬場ならではの育成環境が功を奏したようだ。
『レタス・キング』は、アイデア不足に悩むハリウッドプロデューサーが、SNSで偶然見つけた巨大レタスの写真に魅了され、主演に抜擢するという実話に基づいた物語。撮影中、レタスには専属の栄養士と美容師が付き、撮影の合間には霧吹きで水分補給を行うという厚遇ぶりだった。
映画評論家の田中真理子氏は「レタスの存在感は圧巻。動かないのに演技しているように見える芸術性は、人間俳優を凌駕している」と絶賛。公開から2週間で全米興行収入は3億ドルを突破し、批評家からも高い評価を受けた。
この快進撃を受け、アカデミー賞では史上初となる「最優秀主演野菜賞」という特別カテゴリーまで新設され、ノミネートされるという快挙を達成した。しかし、審査過程で「食べられない」という致命的な問題が浮上。アカデミー賞規定に「主演を務める食材は、撮影後に試食可能であること」という条項があったのだ。
映画撮影時に使用された特殊な保存料と照明の熱により、レタスは見た目は鮮やかな緑色を保っているものの、実際には固く石化していたという。アカデミー賞審査委員のジョン・スミス氏は「食べ物としての本質を失っている」と述べ、失格を言い渡した。
この決定に対し、突如として「国際食文化映画協会」を名乗る組織が声明を発表。「食べられないものも食文化の一部であり、視覚的満足も食の要素」と主張し、アカデミー賞の決定に異議を唱えた。後に判明したところによると、この協会は映画のプロモーション会社が急遽立ち上げた架空組織であったという。
映画界では「食べられるもの」の定義をめぐって論争が勃発。映画評論家の中には「チョコレート工場の装飾品も食べられないが、食文化の表現である」と擁護する声がある一方、「演技者が消費されるべきという考え方自体が問題」という意見も。ある俳優は「私たちも役作りのために体を張っているが、食べられることは求められていない」と皮肉を込めてコメントした。
日本競馬会(JRA)は今回の騒動を受け、「競馬場農園プロジェクト」を拡大する計画を発表。「次は菜の花を育てて、春のG1に合わせて映画デビューさせたい」と意欲を見せている。
安田記念で育った一つのレタスが、映画界と食文化の境界線を曖昧にし、新たなエンターテイメントの可能性を示した今回の出来事。「食べられない」という理由で失格となったものの、世界中の人々の心に残る存在となったこのレタスは、競馬場の土に還ることなく、映画博物館に永久保存される予定だという。皮肉にも「食べられない」という特性が、レタスに永遠の命を与えることになったのだ。
ちなみに私はこの一連の騒動を追うため、カリフォルニアまで取材に飛んだのだが、現地の有機野菜マニアが経営する映画館で上映されていた『レタス・キング』を見た後、劇場内ポップコーンスタンドの「レタス風味ポップコーン」を試してしまった。味は言うまでもなく最悪だったが、映画の余韻と一体になって、不思議と全部食べてしまった。食べものと映画の関係性って、結局のところ、理屈じゃなくて心情なのかもしれない。安田記念、来年は何が育つのか、今から楽しみである。