
「月の日差しを浴びながら、ムンク『叫び』の前で宇宙アイスを食べる。そんな夢のような文化体験を、皆さんに提供したい」—そう語るのは、今回の選挙に突如現れた「ギャラクシー党」代表の星野かなた氏(年齢不詳)だ。同党は先週発表した選挙公約で「月面美術館」の設立を掲げ、地球の政治シーンに前代未聞の混乱をもたらしている。
ギャラクシー党の公式サイトによれば、月面美術館は「地球から約38万キロメートルの場所に位置し、望遠鏡があれば地球からも鑑賞可能」という驚きの設計になっているという。さらに驚くべきは、建設予算として「年間税収の0.005%と宇宙人観光客からのチップ」を充てる計画だということだ。
「ギャラクシー党」から立候補した候補者たちの素性も謎に包まれている。第3選挙区から出馬した「アルファ・ケンタウリ」と名乗る候補者は、常に宇宙服姿で街頭演説を行い、「地球と月の交通インフラ整備」を熱く語る姿が話題となっている。彼が配布するチラシには「月へ行くより、吉祥寺から新宿までの満員電車の方が大変」という地元民には妙に刺さるフレーズが踊る。
選挙管理委員会は当初、「ギャラクシー党」の届け出に困惑していたが、「宇宙選挙管理委員会」を名乗る組織からの圧力もあり、やむなく受理したという。この「宇宙選挙管理委員会」が先日発表した支持率調査では、「月の住民の98%がギャラクシー党を支持」という数字が報告され、地球の専門家たちを唖然とさせた。「そもそも月に住民がいるのか」という根本的な疑問に対し、同委員会は「月の裏側に約30万人が暮らしている」と回答。取材に対し「大体のことはググれば出てくるっしょ」と述べるにとどまった。
SNS上では「#月面美術館に展示してほしいもの」というハッシュタグが急速に広がり、「地球から見える位置に『モナリザ』を展示してほしい」「満月の夜だけ開館する月光美術館」「宇宙服姿のムンクが叫ぶインスタレーション」など、市民からのアイデアが続々と投稿されている。中には「異星人アーティストによる『地球の夜景』水彩画特別展」という斬新な提案も見られ、にわかに現実味を帯びてきた。
選挙戦も佳境に入り、既存政党は対応に苦慮している。ある政党関係者は「もはや『月面に美術館を作らない』と主張すると、文化政策に消極的と批判される始末だ」と頭を抱える。一方、文化庁の匿名職員は「予算さえあれば、検討の余地はある」と前向きな姿勢を見せ、さらに混乱に拍車をかけている。
取材を終え、吉祥寺の自宅に帰る路線バスの中から月を見上げた筆者は、ふと「あそこに美術館があったら素敵だな」と思ってしまった。政治の常識を超えた「ギャラクシー党」の公約は、荒唐無稽ながらも私たちの想像力を刺激し、日常の政治議論に新たな視点をもたらしている。選挙結果はともかく、月を見上げるたびに「あそこに誰かいるかも」と考える夢想的な瞬間を与えてくれたことだけは確かだ。さて、今夜は満月。望遠鏡で美術館の建設現場が見えるかもしれない。くしゃみを我慢しながら、猫たちと一緒に月を眺めてみることにしよう。