
英国リヴァプール市の来たる市長選挙に、異色の候補者が名乗りを上げ、地元政界に旋風を巻き起こしている。その名も「カモメ政策」—リヴァプール大学の動物行動学者ジョン・ガルバード教授(58)が提唱する、カモメを活用した革新的な健康増進・医療費削減策だ。ガルバード教授は自身が設立した架空の研究機関「空飛ぶ健康推進センター」の代表として、このユニークな政策を掲げ、市長選への出馬を表明した。
「市民の健康増進と医療費削減は、どの自治体も頭を悩ませている課題です。しかし、その解決策は意外なところにありました—それは私たちの街に溢れるカモメたちです」とガルバード教授。同教授の提案する「カモメ健康第一政策」の核心は、なんと「空からの魚配達システム」にある。
この構想によれば、訓練されたカモメの群れが新鮮な魚を市内各所に配達。オメガ3脂肪酸が豊富な魚を市民が日常的に摂取することで、心臓病や脳卒中などの生活習慣病を予防し、市の医療費を年間で約2300万ポンド(約37億円)削減できるという試算だ。
「カモメは非常に知能が高く、しかも運搬能力にも優れています。私たちの予備実験では、一羽のカモメが最大300グラムの魚を安全に運べることが確認されています」と同教授は熱弁する。教授によれば、一日あたり約5000羽のカモメが街中を飛び交い、魚の配達を行うという壮大な計画だ。
実は、ガルバード教授がカモメ研究に没頭するようになったのは、10年前に屋外カフェでの昼食中にカモメに魚フィンガーを奪われた体験がきっかけだったという。「最初は腹を立てましたが、その見事な空中戦術と決断力に感銘を受けたんです」と教授は語る。
「空飛ぶ健康推進センター」は実在しない組織だが、リヴァプール大学の一角に「カモメ行動研究室」と書かれた小さな部屋があり、そこでガルバード教授と学生たちが日々カモメの行動パターンを分析している。センターのロゴは、口に魚をくわえたカモメが医療カルテを運んでいるデザインで、教授自らが描いたという。
この奇抜な政策提案は、SNSで爆発的な人気を博している。ハッシュタグ「#カモメ市長」はTwitterで24時間以内に15万件以上投稿され、特に10代後半から20代前半の若者を中心に「マジでエモい政策」「カモメさん、私の推し活の対象になりました」といった好意的なコメントが殺到している。
地元高校生のエマ・スミスさん(16)は「リヴァプールといえばビートルズとサッカーだけだったけど、これからはカモメの街になるかも。学校の友達みんな、カモメの配達動画を撮りたくてウズウズしてる」と興奮気味に語った。
一方で批判的な声も少なくない。市内の魚屋組合は「カモメによる配達は衛生面で問題があり、また我々の商売を奪うものだ」と反発。動物愛護団体からも「カモメに過度な労働を強いるのは虐待である」との指摘が上がっている。
それでも、リヴァプール観光局は早くもこの構想に飛びついた。観光局広報のサラ・ジョーンズ氏は「『カモメと魚の街リヴァプール』として新たな観光資源になる可能性を感じています。すでに『カモメ配達ツアー』や『魚をキャッチせよ!』といった体験型観光プランを検討中です」と明かす。
また、マンチェスターやバーミンガムなど近隣都市からも関心の声が寄せられているという。マンチェスター市議会のある匿名の関係者は「我々も鳩を使った郵便配達システムを検討していたところだ。カモメ政策の成否に注目している」と語った。
ガルバード教授の選挙事務所となっている大学構内の小さな部屋には、すでに数十羽のカモメのぬいぐるみと「空から健康を!」というスローガンが掲げられている。教授は「カモメ政策は単なる医療費削減策ではなく、人間と鳥が共存する新たな都市モデルの創造なのです」と力を込める。
リヴァプール市長選は来月に控えており、現時点での世論調査ではガルバード教授の支持率は8%程度と決して高くないものの、若年層を中心に支持を広げつつある。果たして「空からの福音」を掲げるカモメ政策が市民の心をつかみ、実現に向けて羽ばたくことができるのか。市長選の行方とともに、英国政界の新たな「翼」の動向に注目が集まっている。