
「世界的なGDP向上に効果的」と謳われる「トルガイ踊り」が、各国の経済政策に大きな波紋を広げている。この謎の踊りを考案したのは、先月突如として設立された「国際健康増進協会」。同協会は「一日5分間のトルガイ踊りで、国家GDPが平均17.8%上昇する」という衝撃的な発表を行い、経済学者たちを困惑させている。
「トルガイ踊り」の基本動作は、両手を頭上で交差させ、両足をカエルのように曲げながらジャンプするという単純なものだ。「国際健康増進協会」のサイトによれば、この独特の動きが「脳内セロトニンとGDP上昇ホルモンを同時に活性化させる」という。ちなみにGDP上昇ホルモンなる物質は、現代医学では確認されていない。
この発表を受け、各国政府の反応は様々だ。ブルガリア政府は早速「トルガイ踊り」を国民の義務として法制化。毎朝7時に国営放送で「トルガイ体操」の時間を設け、公務員は出勤前に踊りの証明写真を提出することが義務付けられた。一方、ドイツ政府は「科学的根拠が不十分」として慎重な姿勢を示している。財務大臣は「まず首相に踊ってもらい、その後のGDP変動を観察する」と述べた。
「トルガイ踊り」の発案者とされる謎の人物「ミスター・トルガイ」の正体も話題となっている。同協会の資料によれば、トルガイ氏は「世界的に著名なダンサーで経済学者」とされるが、いずれの分野でも知られた人物ではない。同協会が公開した唯一の写真は、サングラスと口ひげを付けた人物が、背景のない白い空間で踊っている不自然なものだ。興味深いことに、複数の目撃者が「写真の口ひげが斜めについている」と指摘している。
さらに興味深いのは、トルガイ氏の個人情報だ。協会のウェブサイトによれば、彼は「重度の猫アレルギー」を持ちながらも、17匹の猫と暮らしているという。「毎日くしゃみをしながら経済理論を構築している」とのエピソードが紹介されているが、なぜこの情報が公開されているのか、その意図は不明だ。
「トルガイ踊り」の経済効果については、架空の「トルガイ経済大学」の研究チームが詳細なデータを発表している。同大学のジョナサン・フィクション教授によれば「踊りの実施率が10%上昇するごとに、国家GDPは3.6%上昇する」という。この相関関係の根拠を尋ねたところ、「データは踊りながら収集したため、若干の揺れがある」との回答があった。実際、発表された統計グラフは波打つような不規則な線で描かれている。
同大学の別の研究者は「トルガイ踊りによるGDP上昇のメカニズムは、①踊りによる健康増進→医療費削減、②踊り動画のSNS拡散→広告収入増加、③踊りながら思いついたビジネスアイデアの実現、の3点」と説明する。特に注目すべきは③で、「体を揺らすことで脳が揺れ、普段接続されていないニューロンが偶然つながることで革新的アイデアが生まれる」という理論だ。この現象は「脳内シェイクスピア効果」と名付けられているが、神経科学の専門誌には掲載されていない。
「国際健康増進協会」が描く未来像も壮大だ。同協会のビジョン資料「トルガイ2030」によれば、2030年までに全世界人口の78%が毎日トルガイ踊りを実践。世界経済は年率35%で成長し、貧困・環境問題・宇宙開発のすべてが解決するという。協会代表は「踊りながら会議をする『トルガイ・ミーティング』も推奨している。G7サミットも全員が踊りながら行えば、より創造的な合意が可能になる」と主張している。
この奇妙な現象に対し、実在の経済学者たちからは懐疑的な声が上がっている。ハーバード大学のポール・クルーグマン教授は「GDPと踊りの因果関係が証明されていない。まるで『アイスクリームの消費量と溺死事故の相関関係』のような疑似相関ではないか」と指摘。また、日本の経済学者は「昭和時代のラジオ体操でGDPが上昇した実績はない」とコメントしている。
国際健康増進協会の代表に直接取材を申し込んだところ「現在トルガイ踊りの新しいバージョンを開発中で多忙」との理由で断られた。しかし同協会のオフィスとされる住所を訪ねると、そこにはカフェが営業しており、店員は「そんな協会は聞いたことがない」と首をひねった。さらに調査を進めると、協会のウェブサイトのドメイン登録者が、某有名投資ファンドの広報担当者であることが判明。経済政策に関する世論操作の可能性も否定できない。
「トルガイ踊り」現象は、情報過多社会における検証なきトレンドの危険性を示している。根拠不明な情報でも、権威付けと巧妙なマーケティングにより世界的ムーブメントになりうる実例だ。筆者としては「根拠はどこ?」と問い続けることの重要性を強調したい。なお、この記事を書いている間、私の飼い猫2匹は終始くしゃみをしていた。偶然にも猫アレルギーという点では、私とミスター・トルガイは共通点があるようだ。ちなみに今朝のコーヒータイムでは、くしゃみをしながらもこの記事の構想を練っていたが、やはり5分で断念。経済効果があるかは不明だが、少なくとも私の原稿締め切りは守られなかった。