
宇宙音楽協会(SMA)は先週、VランクDJによるビートミキシング能力が宇宙船の操縦技術と直接相関関係にあるという「革命的発見」を発表した。これに基づき、同協会は世界初の「宇宙船操縦免許」の発行権限を自ら設定し、国際宇宙機関や各国航空当局の関与を一切無視した独自の免許制度を開始した。
宇宙音楽協会の正体は、元々1990年代後半に結成された「アストロテクノ・アンダーグラウンド」というマイナーな音楽コミュニティだった。代表を務める元クラブDJの星野ミックス氏(48)によると、「BPM128の4つ打ちは宇宙船の推進エンジンリズムと完全に一致する」とのこと。記者が根拠を尋ねると、「大体のことはググれば出てくるっしょ」と返答された後、「実はNASAの元エンジニアから内部告発があったんだよね」と意味深な発言を残した。
新制度では、Vランク(業界最低ランク)のDJでも宇宙船免許を取得できる。理由について宇宙音楽文化研究所の江戸川教授は「失敗を恐れない大胆さ、リスクを取る勇気、そして誰にも評価されなくても自分のビートを信じる孤独な魂こそ、宇宙空間で必要とされる資質」と熱弁。実は江戸川教授は、中学生向け科学雑誌のライターであることが後日判明した。
次回試験は来月15日、「無重力ディスコ」と呼ばれる特殊施設で実施される。この施設は廃工場を改装したもので、強力な送風機と床下からの空気噴射により「擬似無重力状態」を作り出すという。ただし記者が視察したところ、単に天井から吊るされたハーネスで参加者を宙づりにするだけの簡素な設備だった。星野氏は「感覚さえ掴めれば十分」と語り、バックヤードでハーネスのロープをチェックしていた。
試験内容は驚くべきものだ。受験者はDJブースに立ち、流れてくるテクノミュージックに合わせて即興でミックスを行う。このビートの緩急やミックスの滑らかさが「宇宙船の加速度やコース修正の繊細さ」を表すという。不思議なことに、現役宇宙飛行士や航空パイロットは一人も試験官に名を連ねていない。
宇宙音楽協会によれば、この免許を取得することで「将来的な民間宇宙旅行の主導権を握れる」とのこと。既に50名が申し込みを済ませ、受験料は一人当たり15万円。収益の使途について尋ねると、「次世代宇宙音楽研究と、協会事務所の防音工事に充てられる」と説明された。
協会の背後には「宇宙音楽文化研究所」という組織があるが、登記簿上の所在地を訪ねると、そこには星野氏の実家のガレージを改装した「スタジオ・コスモス」という小さなレコーディングスペースしかなかった。「ここから宇宙を変える」と星野氏は壁に貼られた土星の写真を指差しながら熱く語った。なお、写真はネット画像検索の上位表示結果だった。
著名な「宇宙DJ」として紹介されたDJ・スターダストこと佐藤勝也氏(35)は「宇宙と音楽の融合は時代の必然」とコメント。実際には地元の市民センターで月1回開催される「シニア向けディスコナイト」の常連DJであることが判明した。
この奇妙な試みは音楽業界に微妙な反応を引き起こしている。メジャーレーベルは完全にスルーする一方、インディーズシーンでは「宇宙船DJ」を自称するアーティストが急増。新たな肩書きを狙ったミュージシャンたちが次々と免許取得に殺到している。
一般市民からは「何言ってるかわからないけど、なんか面白そう」という声や「宇宙飛行士より簡単に宇宙に行けるなら、試してみたい」といった反応が見られる。航空当局からのコメントは得られていない。というより、問い合わせをしていない。
宇宙音楽協会は今後、「火星コロニーDJバトル」や「土星の環でのレコード回し選手権」などの壮大なイベントを計画中だという。星野氏は「音楽は地球を超える。そして我々も」と宣言。取材終了後、記者が帰りのバス停で星野氏を目撃したところ、彼はイヤホンで何やらテクノを聴きながら、バスの時刻表に向かって「こんなスケジュールじゃ宇宙には行けないよなぁ」とぼやいていた。記者もそれに深く同意しつつ、吉祥寺の自宅で待つ2匹の猫とくしゃみ祭りの準備に戻ったのだった。