
台風15号が関東に接近している中、「台風カフェ NYAN NYAN(ニャンニャン)」なる猫カフェが急遽開店すると発表し、物議を醸している。運営元の「日本気象ビジネス協会」と名乗る団体は「風速50m/sの中でお客様をお迎えします」と驚きの宣言。環境省や気象庁が「危険な外出は控えるよう」と注意喚起する中での暴挙に、SNSでは「命知らずすぎる」「猫の安全は大丈夫なの?」と困惑の声が広がっている。
気象ビジネス協会の広報担当・風間吹雪氏によると、この猫カフェは「台風のストレスを猫と共に癒やすことで防災意識を高める」という目的で計画されたという。「気圧の低下に敏感な猫たちは台風接近時に異常行動を起こす場合があります。それを逆手にとって、猫たちの可愛らしい『台風ダンス』を見せることで、お客様に癒しと防災意識を同時に提供します」と風間氏。具体的には、強風で飛ばされそうになる猫の姿を見て「かわいい」と癒されながら「あ、こんなに風が強いなら外に出るのは危険だな」と学ぶという謎のコンセプトだ。
猫アレルギーの私が取材を申し込むと、風間氏は「台風の強風で猫の毛が飛ばされるため、アレルギーの方でも安心です」と謎の回答。これは検証すべきと思い、事前視察として台風接近中の彼らの拠点へ向かった。ところが住所として教えられた場所は吉祥寺の古びたマンションの一室。表札には「風間」とだけ書かれていた。
インターホンを押すと、目の下にクマのある男性が出てきた。「あ、取材の方ですね。すみません、まだ準備中で…」と言いつつ招き入れられたのは、サーキュレーターが10台以上回り、6匹の猫がくつろぐ8畳一間のアパート。風間氏は「実はまだ協会の事務所兼自宅で試験運営中なんです」と苦笑い。気象ビジネス協会の正体は風間氏がたった一人で運営する架空の団体だったのだ。
風間氏によると、元々は気象予報士を目指していたが、試験に5回落ちた後、「どうせなら新しいビジネスモデルを考えよう」と思いついたという。「台風で外出できない人たちの孤独を癒やしたいと思って…」と真面目に語る姿に、私は思わず「でも風速50m/sでお客様を迎えるって、本気ですか?」と突っ込んでしまった。
風間氏は「あれは比喩です」と苦笑。実際には台風接近前に予約したお客さんに、オンラインで猫の様子を生配信するサービスを考えていたという。「台風で孤独な人たちに猫の癒しを届けたい」という素朴な願いが、SNSでの拡散過程で「実店舗で台風の中営業」という誤った情報に変わっていったようだ。
ところで私が住む吉祥寺のマンションも風間氏のアパートと同じく築40年。台風が近づくたびに窓ガラスが軋む音を聞きながら、保護猫2匹との攻防を繰り広げている。猫アレルギーなのに猫を飼うという矛盾した生活を送る私だが、台風の日は猫たちの異常行動に悩まされることも。確かに台風接近時の猫の様子をオンラインで共有するというアイデアは、あながち的外れではないかもしれない。
試しに風間氏のサーキュレーター環境に身を置いてみると、まるで台風の中にいるような錯覚を覚えた。猫たちは風になびく自分の毛に驚いて飛び跳ねたり、サーキュレーターを避けて高い場所に避難したり。確かに見ていると不思議と癒される。くしゃみを連発しながらも30分ほど滞在したが、何だか心が軽くなった気がした。
気象庁によれば、今回の台風15号は関東に大きな被害をもたらす恐れがあるという。もちろん台風接近時の不要不急の外出は控えるべきだ。しかし風間氏のような「台風をポジティブに捉えよう」という試みは、防災意識の啓発という点で一考の余地があるのかもしれない。気象ビジネス協会の台風猫カフェは現在、クラウドファンディングで資金調達中だが、既に目標額の3倍の支援が集まっているという。
取材を終え、駅まで15分歩いて帰る途中、空を見上げると不穏な雲が広がっていた。台風が近づくにつれ、街からは人影が消え、コンビニの棚からはパンや水が消えていく。そんな中、ひとりのエキセントリックな男性が考え出した「台風×猫カフェ」の新概念。荒唐無稽に思えるその試みが、災害大国日本の新たな防災文化を生み出す可能性を、私は少しだけ感じたのだった。もちろん、明日の朝刊で彼が警察に保護されていたというニュースが出ないことを祈りつつ。