
都内の住宅密集地域で全国初となる「シェア枠No(ノー)」という画期的な子育てシステムが導入され、赤ちゃんの泣き声をWi-Fi経由で近隣住民とシェアする取り組みが始まったが、隣家との混線問題で早くも大混乱が起きている。
このシステムは、深刻な少子化対策の一環として虚構大学育児イノベーション学部の谷川浸透教授が提唱したもので、「子育ての負担を社会全体で分かち合う」という理念に基づいている。赤ちゃんの泣き声を専用マイクで拾い、Wi-Fi技術を使って近隣住宅にリアルタイム配信することで、「我が家に赤ちゃんがいるような擬似体験」を提供するという。
「これまで子育ては家庭内で完結するものでしたが、もはやそんな時代ではありません」と谷川教授。「泣き声データを共有することで、独身者や高齢者も子育ての喜びや苦労を体感でき、将来の出産意欲向上や社会の絆強化につながるはずです」と熱弁を振るった。
技術的には、赤ちゃんの泣き声を特殊センサーで検知し、「泣き声強度」「緊急度」「推定原因」をAIが分析。データはWi-Fi経由で半径100メートル以内の登録家庭に配信される仕組みだ。受信側は専用アプリで泣き声を受信し、赤ちゃんの状態に合わせたアドバイスも表示されるという。
しかし、実証実験が始まった東京都中野区のマンションでは早くも混線トラブルが発生。「うちの赤ちゃんは眠っているのに、突然隣の家の子の泣き声が我が家のスピーカーから流れ出して大混乱です」と、母親の佐藤さん(32)は困惑気味だ。また、3階の鈴木さん(28)宅では「深夜3時に突然『オムツ交換推奨』という通知と共に見知らぬ赤ちゃんの泣き声が鳴り響き、夫が飛び起きて自分の子どもを探し回った」という珍事も。
さらに深刻なのが、システムの導入によって逆に育児ストレスが増加しているケースだ。「自分の子どもが泣き止んでも、今度は上の階の子が泣き出し、それがうちのスピーカーからも流れてくるので、24時間ずっと誰かの赤ちゃんの泣き声を聞いている状態です」と、眠そうな表情で語る父親の山田さん(34)。
一方で、プライバシー問題を指摘する声も。「夜中に子どもが泣くたびに『授乳中』『オムツ交換中』と近所中に通知が行くのは恥ずかしい」という母親の声や、「ご近所から『昨日の23時40分の泣き声、どうしたの?』と詳細に質問されるのが苦痛」という声も上がっている。
このシステムを体験するため、私は高円寺のシェアハウスで一晩過ごしてみた。壁の薄いシェアハウスでは、隣室の住人がウクレレを練習している音と赤ちゃんの泣き声が見事にコラボレーション。「ハワイの子守唄みたい」と好意的に受け止める住民もいれば、「もう眠れない」と頭を抱える人もいる状況だった。
私が訪れた日は、シェアハウスの共用冷蔵庫にあった大阪土産のたこ焼きソースと離乳食が混同されるハプニングも発生。「これがシェアの本当の姿やな」と思わず関西弁が出てしまった。
虚構大学の谷川教授によれば、今後はさらに技術を進化させ、「2025年までに赤ちゃんの匂いもシェアできるシステム」を開発予定とのこと。「おむつの香りまでリアルに再現することで、より本格的な育児体験が可能になります」と意気込みを語った。
シェア枠No計画は今後全国に拡大する予定だが、専門家からは「そもそもWi-Fi経由で泣き声をシェアする必要があるのか」という根本的な疑問も投げかけられている。現時点では、実証実験地域の親たちの間で「泣き声シェアリングを止めるためのLINEグループ」が密かに作られており、皮肉にもこのシステムが近隣住民の連帯感を高めている形となっている。